ひと涼み・うるおい スタイルBOOK
なぜ名門スポーツ校の生徒たちは、
炎天下でも猛練習が続けられるのか?
スポーツ - 部活動

真夏の炎天下でスポーツに打ち込む、高校の部活動。とはいえ最近、夏の試合会場で「熱中症」を発症したというニュースに触れることがあります。もしもそれが、高校生活最後の大会途中であったら……それは発症した本人にとっても、チームメイトにとっても残念なこととなってしまいます。だからこそ、高校の部活ではさまざまな「熱中症」対策の取り組みが行われているようです。今回、高校野球や高校サッカーの名門として知られる帝京高校(東京)にご協力いただき、どんな「熱中症」対策を行っているかを伺いました。
Text by Hitosuzumi Style Book
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自己管理できるような指導がポイント
今回、帝京高校の部活動のうち、「屋外」で活動している部活動と「屋内」で活動している部活動に同じ内容のアンケートを配布し、回答していただきました。まずは、「屋外」で活動している部から、アンケート結果をご紹介しましょう。答えてくださったのは「硬式野球部」と「中高ラグビー部」です。
Q1 夏の屋外練習で気をつけていることを教えてください。
【硬式野球】
口の中がかわいた感じがあった場合、すぐに水分を摂らせています。スポーツドリンクを少し薄めたものを補給させます。
【ラグビー】
①練習時間を、なるべく気温の低いそうちょうや午前中に設定します。②暑い時期になる前に、「熱中症」についての指導を行います。具体的には「熱中症とは?」「睡眠」「食事」「水分補給」「服装」「互いにチェックしあう」といった内容です。
Q2 夏の屋内練習で気をつけていることを教えてください。
【硬式野球】
トレーニングルームなどでは窓を全開にしています。また服装についても、できるだけ軽装にすることを心がけています。
【ラグビー】
コメントなし
Q3 部員たちの健康管理について、注意していることは?
【硬式野球】
寮生活ではないので、通学に2時間程度を要する生徒もいます。そのため睡眠時間の不足はあると思います。練習時間を工夫し、ハードなトレーニングは日差しの強い時間の練習を避け、夕方や日没に近い時間帯に行うようにしています。
【ラグビー】
Q1と同じ
Q4 「熱中症」などのアクシデントを経験されたことはありますか。
【硬式野球】
インターバル走中と個人ノック中にありました。すぐにアイシングと高酸素吸入を行い、安定した状態になってから、念のため医師の診断を仰ぎました。特に問題は見つかりませんでした。
【ラグビー】
10年ほど前、休憩明けの練習の際に発症。速やかに身体全体をアイシングし、病院に搬送しました。
Q5 「練習」と「試合」では注意点が変わったりしますか
【硬式野球】
試合の場合、通常時にはない緊張もありますので、約1.3倍から5倍の水分補給を行うように指示してあります。クエン酸とアミノ酸の摂取は必要不可欠だと思います。
【ラグビー】
練習時も、試合時も、同じレベルで指導しています。
Q6 そのほか、「夏の部活動」で注意していることは??
【硬式野球】
「熱中症」の対策で一番効果的なのは、自分の尿を確認することです。できるだけ透明に近い尿の状態を保持する必要があると思います(かなりの水分を摂取)。生徒の自己管理にもつながるので、実践する価値はあると考えます。
【ラグビー】
①とにかく「熱中症」の予防を重視しています。②練習内容的には、短時間に行うようにしています。ラグビーの場合、練習の途中で動きを止めて、戦術を確認したり、考えたりと頭を使いながらプレーします。春や秋冬であれば、それは練習のときからしていることですが、夏の場合、炎天下で立ち止まって考えるというようなことはやめて、単純な練習を行うようにしています。ひいてはそれが、練習時間の短縮にもつながっているということです。 -
短い休憩を入れ、メリハリある練習を!
続いては、屋内で活動する部活動を指導する先生方に伺いました。答えてくださったのは、「男子バスケットボール部」と「男子バレーボール部」です。
Q1 夏の屋外練習で気をつけていることを教えてください。
【バスケ】
競技が、試合中にベンチに戻らない限り水分補給できないため、練習中は常に水分が補給できるようにしている。また塩分も摂らせたりする。試合が1クオーター10~15分のため、練習も同じ時間で行い、休憩を入れるようにしている。短い休憩をこまめに入れ、めりはりをつけている。
【バレー】
コメントなし
Q2 夏の屋内練習で気をつけていることを教えてください。
【バスケ】
窓の開閉が困難なため、空調機を使用し、換気している。休憩時間は屋外同様に短い休憩をこまめに入れ、めりはりをつけている。
【バレー】
開放できる窓、扉は開けた状態で練習し、休憩時間をこまめに入れ、水分補給を行わせる。
Q3 部員たちの健康管理について、注意していることは?
【バスケ】
夏は水分を多く摂ってしまいがちのため、朝・昼・夜と十分な食事をしない生徒が増えてしまう。そのため栄養士の指導の下、家庭にも協力していただき、バランスのある食事を摂らせるようにしている。また睡眠時間は必ず7~8時間は取るようにさせている。
【バレー】
日々の規則正しい食生活を促している。まら睡眠は最低でも6時間は摂るように促している。
Q4 「熱中症」などのアクシデントを経験されたことはありますか。
【バスケ】
特になし。
【バレー】?
呼吸が荒くなり、脱力感に襲われた生徒がいた。
Q5 「練習」と「試合」では注意点が変わったりしますか。
【バスケ】
試合中はアドレナリンが多く分泌し、普段以上に動いてしまうため、練習と同じ雰囲気や環境を作ることを意識している。
【バレー】
試合の日は朝食をしっかりと摂らせると同時に、ビタミン、ミネラル、糖質、たんぱく質を多く含むものを食べさせるようにしている。
Q6 マネージャーの生徒さんに出される指示として、夏だからこそのものはありますか。
【バスケ】
水分補給用の水やスポーツドリンクなどが冷たくなりすぎないようにさせている。お腹を冷やさないため。
【バレー】
特になし。
Q7 そのほか、「夏の部活動」で注意していることは
【バスケ】
塩分(塩)を水分摂取時に、同時に摂らせている。
【バレー】
身体を冷やさないために、こまめに着替えさせている。 -
激しいダイエットは禁止です!
夏の高校野球などでは、スタンドで応援するほうが「熱中症」を発症するケースも見られます。そこで最後に、応援する生徒さんを代表して、「リアリーディング部」の先生に伺いました。
Q1 夏の屋外練習で気をつけていることを教えてください。
水分補給をしっかりさせることを一番に心がけています。飲み物は各自で用意させるほか、ジャグに氷を入れたスポーツドリンクを作り、各自が「飲みたい!」と思ったときに自由に飲ませています。
Q2 夏の屋内練習で気をつけていることを教えてください。
屋内練習は行っていません。
Q3 部員たちの健康管理について、注意していることは?
過度なダイエットは厳禁としています。
Q4 「熱中症」などのアクシデントを経験されたことはありますか。
炎天下での練習中に倒れ、病院に搬送して点滴を受けた生徒がいました。
Q5 「練習」と「試合」では注意点が変わったりしますか。
特に変わりません
Q6 マネージャーの生徒さんに出される指示として、夏だからこそのものはありますか。
無理をしすぎない。気分が悪くなったときには我慢させず、早めの処置を。
Q7 そのほか、「夏の部活動」で注意していることは?
十分な水分補給と適度の休憩。これに尽きます!
教育機関に対しては、文部科学省が「熱中症対策」についての研修などを行い、指導者に対して十分に配慮するよう求めています。そこで編集部では、このアンケートを昭和大学病院で救急医学に取り組む三宅康史先生にご覧いただきました。
三宅先生が注目されたのは、「男子バスケットボール部」の“お腹を壊さないよう、飲み物を冷やしすぎないようにしている”ということや、「硬式野球部」の“尿をチェックさせている”ということでした。
「考えてらっしゃいますね。確かに尿が濃縮されて、濃く見えてくるのは確かだと思います。高校生と言えばまだ少年。それくらいの年齢で、血尿など別の理由で尿の色が濃くなるということは、まず考えにくいですからね」(三宅先生)。
「熱中症に対する配慮が行き届いてきたことによって、重大事故件数は減っていると聞いています」と三宅先生。高校の部活で強いチームや強い選手であるためには、練習に打ち込むだけではなく、しっかりとした体調管理と熱中症対策が必要だということですね。